内浜ジャーナル
名古屋市瑞穂区内浜町にある「すずき内科クリニック」の鈴木馨医師のブログです。病気の説明や私の趣味などを語っていきたいと思います。
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> アーカイブ - 2013年06月
「永遠のゼロ」と「壬生義士伝」
百田尚樹作の「永遠のゼロ」は180万部売り上げたベストセラー小説です。特攻隊の話で、もちろんかなり重いストーリーです。百田氏にとってはこれが初めて出版された小説です。放送作家として活躍はされていたようですが世間では無名の小説家の作品で、しかも覚悟して読まなければならないような内容の作品がこれほど読まれたことは驚きです。
特攻で散った祖父を生存者にインタビューしていく、という形で物語が作られています。零戦乗りの名人で必ず生きて帰りたかった祖父がなぜ特攻で死ななければならなかったか。特攻隊関係の戦争経験者の話はかなり現実味があります。今の世の中どころか終戦直後から戦争経験というものが日本人の間に十分に伝わっていませんが、このような凄まじい現実を経験した人々の口が重くなるのももっともでしょう。この小説の中では戦争の様相がかつての兵士から遺憾なく語られます。例えば「戦場は戦うところだ。逃げるところじゃない。あの戦争が侵略戦争だったか、自衛のための戦争だったかは、わしたち兵士にとっては関係ない。戦場に出れば、目の前の敵を討つ。それが兵士の務めだ」。特攻隊員が洗脳されたテロリストだと決めつける無礼な新聞記者に対して「遺族に書く手紙に『死にたくない!辛い!悲しい!』とでも書くのか。それを読んだ両親がどれほど悲しむのかわかるか」。など百田氏は本当に戦争体験者の心情を描ききっています。
さて、この小説は百田氏自身も浅田次郎作の「壬生義士伝」へのオマージュであると書いているように「壬生義士伝」とかなり似ています。そこで再び「壬生義士伝」を読み返してみました。以前読了した時に感じたある種の不可解さが解決するかという期待もあって。
「壬生義士伝」は「永遠のゼロ」よりおよそ77年前の話です。幕末の内乱の時代、文武に秀でているのに足軽という身分のため妻子を十分に養えない吉村貫一郎が金欲しさのために新撰組に加わった。最後は鳥羽伏見の戦いに敗れ瀕死の状態で故郷の盛岡藩の藩邸にたどり着くが竹馬の友である上役に切腹を命じられる。この作品も後年、大正の時代になってから関係者にインタビューしていく、という形式で物語が進められていきます。
主人公の強さと優しさ、特に妻子への愛情、友情、忠義が新撰組という優しさのかけらもなさそうな組織と矛盾無く一体となって描かれており、浅田次郎氏の筆力には感服します。時代小説はひとつひとつの言葉の使い方にも莫大な知識の裏付けが必要です。素人には始まりの一文さえ書くことはできないでしょう。それがいろんな立場にある人の語り口で描かれ、最後には見事な候文の手紙で締めくくられています。時代小説家としては最高のレベルの作家であると思います。
しかし再読してみても竹馬の友がなぜ切腹を命じたのか、長男が死に場所を求めて最後の負け戦(函館)にまで行かなければならなかったについては腑に落ちません。文章上では十分に説明されているのですが。この点「永遠のゼロ」の宮部久蔵が最後の最後に特攻に参加しなければならなかった理由の方が納得できそうです。
ともかく「永遠のゼロ」も「壬生義士伝」も絶対お勧めの作品です。
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[ 2013/06/29 11:31 ]
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